• ありんこシニック1stアルバム「まるあ」発売中

    「まるあ」

    「まるあ」

    ¥ 2,000
    1 モンゴルの少年
    2 ありんこシニックのテーマ
    3 野ウサギの自白
    4 ネムノー
    5 くじけたうた
    6 ピクニック
    7 密航ハルカンデーラ
    8 夜になっても朝になっても曲ができない
    9 あることないこと
    数量
    近日公開
  • ありんこシニック 1stアルバム「まるあ」

    「しょんぼりと暮れゆく夕方、」

    などと(アルバム「まるあ」の)帯コピーを思いついたのだが、朴訥ぶった冷笑コピーライターのような才はないのであった。代わりにコピーにしては少し長めの文章を綴る。

    いつもの仕事を終えていつものようにとくになにもなく終わっていく無為な夕暮れ、あるいはせっかくのお休みだというのに日々に暮れて終わっていくあのさびしい時間帯。しょんぼりした気持ちにターンテーブルにのせる(アナログ盤は発売されていませんが)イメージ。
    大上段でも友達ぶった馴れ馴れしさでもなく、多少卑屈(シニック?彼女らのシニックは決して先の大先生のような冷笑ではない)な姿勢で。寄り添うでもなく、傍に。

    山本ういとヤマサキハルカはともに1996年生まれの高校の同級生。大学を出た後、アルバイトをしたりしながら日々を暮らし、時折音楽を持ち寄り「ありんこシニック」したりそれを披露したりしている。とくに音楽で身を立てたいと考えている訳ではない。彼女らの音楽は日々のなかにあり、そこから発信されている。
    等身大で近親感がある女の子たちといっても、同世代と若々しくきゃぴきゃぴとはしゃいだり、男や上の世代に媚びたりした、ガーリーでも女の子らしさでもないことは一聴された方は(あるいはジャケットを見られただけでも)既にご存知の通り。
    素養を持った個性的な両親のもとに育った二人は、マスメディアや同世代の女の子がのせられてきた“狭い世界”の文化的出自ではない。
    そのことはアルバム開口となった「モンゴルの少年」に早速現われている。多様な異世界への想像と憧憬、その端緒の文化的接触。窓は早くから遠く異世界にも開かれているが、いまはここにいる。アルバムに耳を傾けているあなたのようないまここの日常に暮らしている。

    いまこの世界に暮らしていて、頭蓋のなかに何かしらの味噌が少しでも、心の中に何かしらの感受性のようなものが少しでもあれば、誰もが苛まれ感じずにはいられないこの社会の劣悪さもそこには滲まざるを得ない。直截な言葉ではなく。「ネムノー」の夢に見たような世界観、「ねんざ(くじけたうた)」の生活の困難さ(仕事にありつく、という表現を現代の女の子の詞に見るとは。ありんこシニックは現代の高田渡でもあるのか)。

    「密航ハルカンデーラ」は、この社会、彼女らが暮らす地方都市の冷え冷えとした現実と、幻想の世界の架け橋となる(〽秘密の船に密航すると/まるで密航しているみたいで といったトートロジーはとくに筆者の好むところ)。彼女らの目に映る二重写しは、久米貴の世界をも内包しようとする。

    「ピクニック」は高校時代文化祭でのライヴのために結成されたありんこシニックの初舞台での一曲でもある。「野ウサギの自白」は久米楽曲のなかから2曲目として挑んだ作品。世代もテイストも違う彼女らがその世界を歌うとき、シュールに捻れた原曲の世界がさらに異化され、なんとも妙なる寿ぐべき捻れが生じている。
    久米楽曲をカヴァーするミュージシャンは少なくないそうだが、そこで受けた衝撃を頼りにオリジナルに触れた者は、こんな曲だったんだ!とまた衝撃を受けるとか。ありんこカヴァーからオリジナルに遡るのももちろんよいが、久米ファンにとってもありんこカヴァーは必聴といえる。

    さて、あなたの近くにもいるフツーの女の子(あなたの隣人「ありんこシニックのテーマ」)、しかし世間に毒された凡百のつまらぬ女の子ではないのはアルバムを聴いて、あるいはここまで読んでいただいた通り。日々の暮らしのなかで「夜になっても朝になっても曲ができない」と悩ましく創作していたりする彼女ら、普段の生活ではその表現世界ほどには、いや表現世界があるからこそ日常では、冗舌ではない。
    そういった彼女の前で「あることないこと」つまらぬ過去を語ってばかりいるあなた。しかし彼女らは今日を生きている。しょんぼりと暮れゆく夕方、わたしたちはせっかくの一日をすでに過去にして無為なことばを重ねているばかりなのかも知れない。この劣悪な社会は決して放置されたままではいけないけれども、〽安心したらどうなの (「まるあ」を買ってきて聴いてね)。

    ありんこシニック 1stアルバム「まるあ」は黒猫やレコード屋iNaDAYなどで発売中

    黒猫 店主

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